立ち位置  ―ワガママ(1)―

  私が以前所属していた合唱団は毎年オーケストラ協演の大曲に取り組んでいた。

  演目は団の音楽監督のような立場のプロの指揮者Yマエストロがオケの選定やソリストの人選も含めて、団長とも相談しながら決められていた。

  ある年、この世界で名の通った某大学系のソリスト招いてのプログラムで、当日朝の最終舞台リハーサルで指揮者がソリストの立ち位置をオケのうしろ、コーラスとの間と指示されたところ、バリトンのソリストがそれもコーラス全員が見ている前で「オケの前にしてくれ」と注文をつけた。

  Yマエストロは穏和な表情崩さず「まあまあ」とか言いながらそのまま押し切ってしまわれたが見ていた私は「一体誰が声をかけてくれたお陰でこの舞台に立てているのかわかっているのか」と半ば腹立ち半ばあきれた。

  Yマエストロ、その後その大学系の人をソリストに指名されたことは一度もない。

 

2021.06.01