〇エレベーター  ―  プロとアマ ⑵  ―

やはり日本の古典芸能の世界での話である。

戦時中の話だが、京都の南座で、東京から来られた日本舞踊の家元一門による公演があった。

その中の演目「鏡獅子」には胡蝶という二人の子役の役があり、当時お師匠さんについて習っていた小学生の私の姉ともう一人がその役に当たった。

公演当日私の母が姉の手を引いて楽屋へ入りエレベーターを待っていると偶々そこへ来合わせた家元が腰をかがめてどうぞ、と先をゆずって下さったそうだ。

 

日舞界の大御所が一介のアマチュア母子に対してそのように振舞われたとは流石に一流の方は違うと思ったと母はよくその話をしてくれた。 

2021.04.06