〇一対二十  ― プロとアマ (1)  ―

プロとアマという話が出たが、こういう話もある。

私の高校同級生で、能楽を極めている友人が言っていたが、一番の(一曲の)能を舞う(シテ=主役=を演ずる)には、費用が百万円をはるかに超すとのことである。

能の上演には、シテ、ワキ、ツレなどのいわばキャストのほかに、笛・小鼓・大皷(おおかわ;膝のうえに置いて打つ、小鼓を大きくしたような楽器。甲高い音がする)・太鼓の「囃子方」、謡曲のコーラス部分を謡う(歌う)8人の「地方(じかた)」、舞台の一隅で演者を見守る二人の「後見」、舞台への出入口の幕を開閉する人、出演者の衣装を着付ける人など二十人近くの人達がかかり切りになる。

その中で彼一人がアマチュアで、残りの二十人近いプロの人々の費用を支える。

この人数の関係は、数十人のアマチュアが少数の専門家の指導を仰ぐコーラスとは逆である。

ついでだけど、後見の役割は、万一演者に事故があったときに、一人が演者を支えて舞台の外へ連れ出しもう一人が続きの部分を(衣裳はつけていないが)最後まで舞う、ということで、演者の事故による上演途中打切りを避けるためのシステムである。

 

2021.03.23